就労移行支援はひどい?からくりがある?不信感の原因と失敗しない選び方
障害があって仕事ができない状態を脱するとき、頼りになるのが就労移行支援です。しかしそのはずなのに悪い噂が絶えないのもまた事実です。就労移行支援はひどいと言われることがよくありますが、本当にひどいのでしょうか。どんな点がひどいのでしょうか。
この記事では、就労移行支援がひどいと言われてしまう原因と、問題のある事業所を避けるための失敗しない選び方について解説します。就労移行支援の利用を検討している人、すでに利用中で不信感を持っている方はぜひお読みください。
就労移行支援の「からくり」?
就労移行支援は、「金儲けのためにやっている」「利用者のことなど考えていない」「利益を上げるためのからくりがある」などと思われがちです。結論を先に言うと、一部に悪質な事業者があるのは事実ですが、ほとんどの事業所はまっとうな姿勢で支援を行っています。
そこで、まず初めに就労移行支援について、収益などお金の面に関して解説していきます。
行政サービスでもボランティアでもない
就労移行支援とは国の法律に基づく就労支援のサービスであり、企業が事業として行っているものです。言い換えると、行政が提供しているサービスでも寄付や自腹でまかなわれるボランティアでもありません。
事業として行っている以上、利益を上げる必要があります。また、できるだけ多くの利用者の方々が就労できるよう続けていくためにも、ある程度収益のことを考えざるを得ないという面もあります。
収入は給付金+利用料
就労移行支援事業所の収入源は大きく分けて2つあります。
まず、国から出る給付金です。くわしくは次に述べますが、給付金の金額はさまざまな条件によって定められています。
さらに2つ目の収入源として利用料があります。無料で利用している利用者も多くいますが、本人や世帯の所得によっては利用料を納めている利用者もいます。
この2つのうち、とくに給付金に関することで金儲け主義に見られることがあるのです。
給付金の決まり方
それでは、具体的に給付金はどのようにして金額が決められるのでしょうか。給付額は以下の条件によって決まります。
- 利用者の数と、利用時間・利用日数など利用の状況
- 就職・卒業した利用者の定着率
- その他の条件
具体的な基準はかなり細かいので割愛しますが、利用者数や利用時間・日数が多いほど、あるいは就職した卒業生の定着率が高くなるほど給付金も増える仕組みになっています。
利用者による利用時間の合計などは月ごとに異なるため、給付額は常に変動しています。
「就労移行支援やめとけ」と言われる不信感の原因
次に、悪質な事業所、あるいは努力不足な事業所の例について解説します。以下に挙げる事項が不信感の原因となっています。
- 休ませてくれない、辞めさせてくれない
- サポート内容が不十分
- カリキュラム内容が不十分
ただしこれらはあくまで悪質な事業所や努力不足の事業所の特徴であり、すべての事業所に当てはまるわけではありません。すでに述べたように一部に悪質な事業所があるのは事実ですが、ほとんどの事業所はルールを守っています。
では、1つずつ見ていきましょう。
休ませてくれない、辞めさせてくれない
利用時間・日数が長いほど給付金が得られるため、体調がよくないときでも休ませない事業所も存在します。ひどい場合は、休んだのに出席扱いになっていることもあります。これは不正に当たる悪質な行為です。
あるいは回復して退所を希望したときも辞めさせない、期間ギリギリの2年間通わせようとする事業所もあります。これもまた給付金目当てと言われても仕方ない対応でしょう。
ただし法改正により、就職した卒業生が職場に定着する方が給付金が高くなるようになりました。そのため現在では無理な引き止めをするより、本来の目的である就労と定着ができている事業所の給付金が高くなるような仕組みになっています。この点に関しては今後改善されていくことが期待できます。
サポート内容が不十分
提供しているサポートの内容が不十分な場合もあります。この場合は意図的に行っている悪質な事業所ばかりでなく、ノウハウやマンパワーが足りていないことが原因の場合もあるでしょう。
具体的には、カウンセリングなど精神疾患や発達障害の人に配慮したサポートが薄い場合、公認心理師・精神保健福祉士・社会福祉士などによる支援が手薄な場合、スタッフ間の情報共有などができておらずきめ細かな対応ができていない場合などがあります。
いずれもそもそもの目的である支援が足りていないことを意味するため利用者の満足度が低くなり、手抜きや度を越えたコストカットと思われてしまいます。
カリキュラム内容が不十分
また提供しているカリキュラム内容が不十分であるケースもあります。
まず、メンタル系のカリキュラムが不十分な場合です。具体的には、認知トレーニング、行動療法、認知行動療法、アサーション、アンガーマネジメントなどが足りていない場合です。
さらに、就労に向けたスキル習得のカリキュラムが不十分なケースもあります。例としては、ただeラーニングをやるだけであったり、個々のスキル感にマッチしない一律の内容だったりすることなどが挙げられます。
これらのケースも利用者の不満につながります。事業所の側では意図的でなかったとしても、通う価値がないと思われてもやむを得ないでしょう。
誤解からひどいと受け取られてしまうケース
これまで見てきたのとは違って、悪質でないのにひどいと誤解されてしまうケースもあります。こちらに該当する例も多いでしょう。そこで、誤解からひどいと受け取られてしまうケースや誤解されがちな点について解説します。具体的には以下のケース・点が挙げられます。
- 退所や就職先の希望を聞いてくれないケース
- 支援のカリキュラムに意味がないと感じるケース
- 作業に対してお金が支払われない点
- アルバイトが禁止されている点
1つずつ見ていきましょう。
退所や就職先の希望を聞いてくれないケース
まず、利用者が自分の希望を聞いてもらえないと感じるケースについてです。具体的には、退所のタイミングや就職先の希望についての例が多いでしょう。
退所については、本人が回復して退所できると思っていても客観的には時期が早いこともあります。就職先も、支援員の方が利用者の適性を理解していて希望と違う仕事を勧める場合があります。このような場合に支援員が利用者の意思に反した対応をすると、希望を聞いてくれなかったと受け取られてしまうのです。
本人の意思は尊重されるべきですが、理由を確認するのも大切です。もしかしたら利用者のことを思うからこその対応かもしれません。ただし支援員がきちんとした理由を説明できない場合は、事業所の都合でやっている可能性もあります。
支援のカリキュラムに意味がないと感じるケース
支援のカリキュラムに意味がないと感じるケースもあります。
レベルの低い単純作業は、わざわざ訓練する必要がないと思うかもしれません。しかし作業そのものはできても、それを毎日続けるのは飽きてしまってできないこともあります。つまり単純な訓練を繰り返すのは、就労したときに同じことをやり続けられるようになるための場合もあるのです。
また事業所によってカリキュラムは異なるので、提供しているサービスが自分の希望にマッチしていないというケースもあり得ます。こちらもミスマッチが原因であり、事業所が悪いとは言えません。考え方によっては、利用者側の入所前の確認が不十分だったと言えるぐらいです。
作業に対してお金が支払われない点
作業をしているのにお金がもらえないことに不満や疑問を感じるケースもよくあります。作業をしてもお金がもらえないのは、どの事業所も基本的に共通しています。
これは、就労移行支援事業所で行うのは労働ではなく、あくまで仕事ができるようになるための訓練だからです。労働ではないので契約書も交わすことがありません。訓練なので、給与が発生しないのです。
なお、企業と提携している一部の事業所では対価が払われる場合もあります。
アルバイトが禁止されている点
通所や生活のためにアルバイトをしたくても禁止されていることも、よく不満の原因として挙げられます。これもどの事業所も基本的に共通しています。
就労移行支援は、就労のため、仕事に就けるようになるための訓練です。アルバイトは正社員ではなくても「就労」です。よって原則禁止されているのです。アルバイトができるなら、就労できているので支援は不要という考えによります。
アルバイトできないと大変だと思うかもしれません。しかしアルバイトすらできずに、もっと困っている人もいます。そのような就労の障壁が高い人を優先的に支援するための措置でもあるのです。
しかし近年、自治体によってはアルバイトが許される場合もあります。少しずつではありますが、柔軟な対応がされるように変わりつつあるところです。
就労移行支援選びのポイント
最後に、就労移行支援の事業所を選ぶ時のポイントについて解説します。以下の点が挙げられます。
- 支援の内容が自分の希望に合っているか
- 雰囲気がいいか、自分に合っているか
- 就職の実績があり、定着率も高い
- 場所が通いやすい
見学に行くことが大前提になりますが、そのときに上記の点を質問・確認すると自分に合った事業所選びの材料になります。
では、1つずつ見ていきましょう。
支援の内容が自分の希望に合っているか
まず、支援の内容が自分の希望に合っているかどうかチェックしましょう。サポートやカリキュラムの内容は事業所によって異なります。自分の希望をはっきりさせて、それに合っているか確認することが大切です。すでに述べたようにミスマッチがあると、満足度に関わるばかりか就労の予定にも悪影響を及ぼします。
希望がはっきりしていない場合は、見学したときなどに症状などをもとに事業所で相談してみましょう。方向を決める参考になるのはもちろん、担当者の対応を見て相性や誠実さを量ることもできます。
雰囲気がいいか、自分に合っているか
事業所の雰囲気がいいか、自分に合っているかも重要です。にぎやかな場所の方が居心地がよい人もいれば、静かなところの方が落ち着くという人もいるでしょう。雰囲気も事業所によって異なるため、自分に合うところを選ぶことが大切です。
また、通所している利用者や支援員との相性もあります。トラブルになりそうな利用者はいないかどうかなど、見学したときによく観察しておきましょう。また利用者間のトラブルを避けるために、連絡先の交換を禁じている事業所もあります。心配であればそういった点も確認しておくと安心です。
就職の実績があり、定着率も高い
就職の実績があるかどうかも確認すべきポイントです。このとき、一般雇用だけでなく障害者雇用や特例子会社の実績はどうかも聞いてみましょう。障害者雇用・特例子会社は競争率が高いのが一般的です。そのため障害者雇用・特例子会社の実績は、支援員のサポート力や事業所が持つ就職先の候補のマッチング能力の目安になります。とくに自分の希望する業種や職種の実績があるか確認しましょう。
さらに就職の実績だけではなく、就職してから定着できているかどうかも確認しましょう。定着率は適切な職場を紹介できているか、就職後のフォローができているかのバロメーターになります。
場所が通いやすい
また前提と言ってもよい条件として、事業所の場所が通いやすいところにあるかどうかも確認しましょう。時間がかかる場合や交通機関を利用する場合など、疲れや不安の原因になることもあります。一定期間通うことを考えて、必要になる時間や交通手段を確認することが大切です。
通所する時間帯に実際のルートで事業所まで行ってみると、イメージがつかみやすいでしょう。道や交通機関の混み具合といったその時間でしかわからないことを確認できます。
信頼できる就労移行支援事業所を選ぼう
就労移行支援はひどいと思われることもありますが、一部の悪質な事業所を除いてほとんどの事業所は真剣に支援に取り組んでいます。しかし努力不足やミスマッチの事業所もあるので、自分に合ったところを選ぶことが大切です。この記事を参考に、ぜひ自分に合う事業所を見つけてください。