【自閉症スペクトラム障害(ASD)】「できない、続かない」はもう言わない!仕事選びのポイントとは
「自閉症スペクトラム障害」は発達障害の1つで、他人に対する関心が弱かったり人づきあいが苦手だったりするという特性があります。そのため、就職しても精神的に疲労してしまい退職してしまうケースが多く見られます。
この記事では自閉症スペクトラム障害の人が仕事を続けていくために、どのように対策したらいいか、どのような職場を選んだらいいか、活かせる長所はどんなところかについてまとめます。自閉症スペクトラム障害で仕事に悩みのある方はぜひお読みください。
なお呼称について、以前は「自閉症」「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」などと呼ばれていましたが、現在は「自閉症スペクトラム障害」「自閉スペクトラム症」に統一されています。この記事では、これ以降「自閉症スペクトラム障害」「自閉スペクトラム症」と同じ意味を表す「ASD」(「Autism Spectrum Disorder」の略)を使用します。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の人にとって仕事でよくある困りごと
ASDの人の場合、仕事で困りごとを感じることがあります。よくある困りごととしては次の3つが挙げられます。
- マルチタスク・想定外のことへの対応ができない
- あいまいな指示など推測・判断ができない
- コミュニケーションがうまく取れない
1つずつ見ていきましょう。
困りごと|マルチタスク・想定外のことへの対応ができない
まず、ASDの人はマルチタスクや想定外のことに対応するのが苦手です。
ASDの人の場合、一度に1つのことしか処理できなかったり注意を向けられる範囲が狭くなったりするという特性があります。
そのため、複数のことを同時に進めることや自分の手順から外れることが苦手となりがちです。その結果、同時進行で仕事を進めるマルチタスクやイレギュラーへの対応ができなくなることがあります。
困りごと|あいまいな指示など推測・判断ができない
次にASDの人の困りごととして、指示の内容などがあいまいだったときに意味を推測したり判断したりすることが苦手という点が挙げられます。
職場では、重要度の低いことは相手に判断を任され細かく指示がなされないことがあります。また場の雰囲気や流れでものごとが決まっていくこともあります。
しかしASDの人は、言葉になっていないことを察することが苦手です。そのため、あいまいな指示を受けたときや共同作業の分担などがなんとなく割り振られていくときなど、何をしたらいいかわからなくなってしまいます。
困りごと|コミュニケーションがうまく取れない
また、ASDの場合周りの人とコミュニケーションがうまく取れないという困りごともあります。
ASDの人は、態度や雰囲気から相手の気持ちを察したり場の空気を読んだりするのが苦手です。そのため言わないでおいた方がいいことを言ってしまったりして、うまくコミュニケーションが取れない傾向が強くあります。
そのほか本人には悪気がないながらも、しばしば上下関係を無視した態度を取ってしまいます。そのせいで上司などとのコミュニケーションがうまくいかなくなることがあります。
ASDで仕事に悩んだら…対策方法3つ
ASDの人が仕事をしていくのに悩んだり困ったりしたとき、対処の方法として次の3つがあります。
- 工夫しながら今の仕事を続ける
- 退職して別の仕事を探す
- 支援機関を利用する
自分の状態や環境に合わせて、適した対処方法を選びましょう。1つずつ解説していきます。
対策方法|工夫しながら今の仕事を続ける
まず、工夫をしながら今の仕事を続けるという方法・選択肢があります。
指示があいまいだったりして何をしたらいいかわからないときは、内容を具体化・数値化してもらいましょう。たとえば「多めに用意しておいて」と言われたなら「いくつ予備があればいいですか?」などです。また場の雰囲気で進行していることが理解できないときも、「私は何をしましょうか?」など尋ねてしまいましょう。
突然予定が変更になる場合は、なぜ変更になるのか理由を確認しましょう。想定外のことが起こるとASDの人はパニックになることがありますが、なぜ変更になるのか理解できれば安心しやすくなります。
複雑だったりして説明を耳で聞いただけでは理解できないことは、メモや図にして理解しましょう。ASDの人の理解力は決して低くなく、むしろ図などに置き換えると高い理解力を発揮できる場合があります。
また支援機関でアサーション(自己表現)トレーニングなどコミュニケーションスキルを学ぶのも、他の人とのやり取りを改善するのに役立ちます。
これらはASDであることを開示しなくてもできる工夫ですが、開示して協力を求めることができるなら開示した方が理解と協力を得られるでしょう。
対策方法|退職して別の仕事を探す
どうしても今の仕事が辛い場合や工夫の効果が期待できない場合などは、退職して別の仕事を探すのも選択肢の1つです。自分の興味・特性に合った仕事が見つかるなら続けやすいでしょう。
その際は、仕事の内容だけではなく社風や環境も調べて判断することが大切です。たとえばコミュニケーションが必要か、イレギュラーが多くないかなどです。
事務職であれば、特例子会社や障害者枠の仕事も比較的多くあります。それらも視野に入れて探すと、続けやすい職場が見つかる可能性が高くなります。
ASDの人はこだわりが強いためクリエイティブ系・ものづくりに適性がある場合もあります。そういった創作・ものづくり系の仕事を目指す場合は、とくに職場の環境をよく調べましょう。
ものづくりの職人さんの仕事は、阿吽(あうん)の呼吸が必要だったりして、親方や先輩の意図を察しなければならない場面が少なくありません。自分にできるかよく考える必要があります。クリエイティブ系の仕事の場合、理解のある上司・クライアントに出会えるかどうかが仕事を続けられるかどうかの決め手になります。
対策方法|支援機関を利用する
障害者向けの支援機関を利用して対応力を高めるのも選択肢の1つです。ASDの人が利用しやすい支援機関と、そこで得られる支援について簡単にまとめます。
●ハローワーク
ハローワークには障害者専門の窓口があり、専門知識のある支援員から仕事の紹介や履歴書のアドバイスなどの支援を受けることができます。とくに障害者枠の求人を探すときはハローワークは定番です。ハローワークは日本全国にあり利用しやすいほか、出向かずともスマートフォンなどで求人をチェックすることもできます。
●発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは発達障害の人の支援を行っている機関で、労働に関する各機関とも連携しながらいろいろな相談に対応して指導・助言をしてくれます。ただし自治体の状況などによって支援の具体的な内容が異なるため、近隣の支援センターに問い合わせるのが確実です。
●地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは全国に置かれ、ハローワークと協力しながら就職に向けての相談・職業能力等の評価・就職前の支援など、専門的な職業リハビリテーションサービスを受けることができます。そのほか就職後の職場適応のための援助など、継続的なサービスを提供しています。
●就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は障害福祉サービスの1つで、働くために必要な知識や能力を身に付けたり一般企業などへの就職の包括的な支援を受けたりすることができる通所型の施設です。就労移行支援のネットワークを通して紹介を受けられる仕事もあります。利用料の1割は自己負担ですが、前年度の世帯所得により無料で利用できる人も多くいます。
ASDの仕事選びは特性・長所を活かせる場所を
特性や長所を活かせる職場が見つかれば、ASDの人は仕事を続けやすいばかりか戦力として活躍することもできます。ASDの人が仕事で活かせる長所としては、次の特性が挙げられます。
- 興味のあることに没頭できる
- 規則を守る
- 論理的思考力がある
- 視覚情報・文字情報の処理が得意である
1つずつ順に見ていきましょう。
活かせる長所|興味のあることに没頭できる
ASDの人は、興味のあることに没頭できるという特性があります。仕事においては、その特性によって集中して作業に取り組むことができます。もちろん集中して行う仕事は、クオリティが高くなるのがふつうです。
また没頭できるという特性が、スキルアップの勉強もしっかり行えるという形でも現れます。興味のあることの勉強を厭わず専門性を高めやすいのも、仕事でプラスに働くASDの人の長所です。
さらにASDの人の場合、特定分野の記憶力も高い傾向もあります。そのためもともと専門の分野があったり勉強で専門性を高めたりすれば、豊富な知識を活かしてその分野で活躍できると言えるでしょう。
活かせる長所|規則を守る
ASDの人は規則を守る傾向が強く、その傾向も仕事の上で役立つ特性です。
ASDの人は、業務上受けた指示をしっかり守ることができます。言われたことを着実に行うため、上司からすると安心して業務を依頼できます。
またルールや基準とズレていることに気づきやすいので、ミスを確認する校閲などチェック系の仕事にも向いています。そのほか、法務・財務・経理などは仕事にも向いています。法律や経理に関わる仕事はいつでも客観的でありつつ対応にブレがないことが求められるからです。ASDの人はそういった仕事を行う際にも特性を活かすことができます。
活かせる長所|論理的思考力がある
上述した規則を守るという特性にもつながりますが、ASDの人はルールに沿って論理的に考えるのが得意です。
そのため、臨機応変にその場その場で判断・対処していかなくてはいけない仕事は苦手だったとしても、ルール通りに作業をコツコツと積み重ねていく仕事で長所を発揮することができます。
たとえばSEやプログラマーなどは、システムなどを論理的に組み立てていくことが仕事です。ASDの人はそういった仕事に適性があります。
活かせる長所|視覚情報・文字情報の処理が得意である
ASDの特性の一例に視覚情報を処理するのに優れる「視覚優位」がありますが、視覚優位の人はものごとを目で見て把握するのが得意です。
そのため、何かを把握しなければならないときは図や表などを使うと理解・記憶しやすくなります。どんな仕事をしている場合でも深く理解できるので、仕事で活かせる長所の1つです。
また視覚に訴えることが得意な人も多く、その場合はWebデザインなどデザイン系の職種にも向いています。
まとめ
ASDの人は長所を活かせる仕事が見つかれば、そこで長く働き続けられる可能性がぐっと高まります。自分の長所が何かを改めて見つめ直してみましょう。さらに、長所を活かすことに加えて短所をカバーすることも大切です。自分の苦手なのはどんなことかを自覚して、それをカバーする方法を実践しましょう。
その両方をセットで行えば、さらにその仕事を続けやすくなります。もう「できない」「続かない」と悩むこともなくなるでしょう。まずは1人で悩まずに、支援機関に相談するのをおすすめします。